八月の新宿は、夕方になってもまるで涼しくならない。そういう晩に限って、無性に脂っこいものが食べたくなる。四十を過ぎてからこの手の欲は減るものだと思っていたが、一向に減らない。寄る年波に勝てないのは体のほうだけらしい。
北京ダックが五千円弱で一羽出てくる店がある。新宿三丁目の「中国茶房8」だ。中華の口となった欲を満たすべく連れの二人とともに歩を運ぶ。
エレベーターが二基あって、しかも離れている
新宿三丁目の駅からは徒歩1分。ただし駅直結ではないので、一度は地上に出ることになる。もっとも地下通路の出口がビルのすぐ隣なので、雨の晩でもほとんど濡れずに済む造りだ。大きな交差点に面していて、迷う要素はない。
ビルの六階。エレベーターは二基あるのだが、これが左右に離れて設置されている。どちらが降りてくるかを確認してから立ち位置を決めないと、扉が開いた瞬間に小走りすることになる。実際、私は小走りした。

店内は台湾の屋台をそのまま持ち込んだような内装で、照明は少し暗く、赤に寄せてある。壁のテレビでは音を消したニュースが流れていた。長く営業している店なりの使用感はあるが、それも含めての雰囲気だろう。隣席との間隔は詰められるだけ詰めてあり、団体が入れば店内はかなり賑やかになる。静かに会食したい諸氏には向かない。逆に、わいわいやりたい晩にはこれ以上ない。
注文はQRコードを読ませて自分のスマホから入れる方式だった。店員を呼び止める手間がないのはありがたいが、好みは分かれるかもしれない。
まず値段の話をしておく
この店の看板は「名物!窯焼き北京ダック」で4,980円(税込)。一羽である。しかもねぎセットとヤービン(皮)10枚が付き、さらにスープと炒め物がサービスで付いてくる。
【写真:DSCF1533.JPG / 窯焼き北京ダック 4,980円。一羽ぶんがこの一皿に乗る】
【写真:DSCF1530.JPG / 付け合わせのヤービン、ねぎ、きゅうり、甜麺醤】
ホテルの中華料理店で北京ダックを頼めば、皮を数枚めくった皿が出てきて一万円を超えることは珍しくない。それと比べれば、この値段設定は明らかに別の商売をしている。
「五千円弱で北京ダックが出てくるなら、それなりの理由があるんだろう」と言われそうだが、おっしゃる通りである。理由は食べればすぐ分かった。ただしそれは、悪い意味ばかりではない。
肝心のダックはどうなのか

結論から書くと、これは一般に想像される北京ダックとは別の料理だ。
薄い皮だけをそぎ取って包む、あの繊細なやつではない。皮に肉がしっかり付いた状態でそぎ落としてある。だから一枚が重い。二枚も巻けば、それなりに腹に来る。
味は良い。窯で焼いた皮は香ばしく、脂は落ちきらずに残っている。肉の甘みがそのまま口に入ってくるぶん、甜麺醤とねぎの役割が「風味を足す」から「脂を切る」に変わっている。オーソドックスな北京ダックを目当てに来た人は、最初の一枚で戸惑うだろう。私も初訪問の際には戸惑った。ただ二枚目からは、これはこれで完成しているのだと納得した。
量も相当だ。三人で分けてちょうど食べ切れる。二人だとヤービンが余る計算になるので、頼むなら最低でも三人、できれば四人で行きたい。
二人なら食べきるのはきつい感じ?
他に頼むものを抑えればいける
点心はひととおり押さえてある
北京ダックだけの店ではない。むしろメニューの厚みのほうが驚きだった。

水餃子は種類が多い。この日頼んだのは生ニンニク醤油がけの8個で980円。一個あたり120円強と考えれば安くはないが、サイズが大ぶりなので勘定は合う。
水餃子は見た目が同じなので一度にたくさんの種類を頼むとどれがどれだかわからなくなるので注意

小籠包は5個で858円、鉄板焼き餃子は6個で880円。押さえるべきところは押さえてある、という品揃えだ。

広東風蒸し鶏が660円。この価格でこの量が出てくるのは、単純にありがたい。

炒め物と炒飯がそれぞれ1,180円。ここは新宿の中華としては標準的なところだろう。なお肉料理には牛・豚・鶏のほかに羊肉もあり、香辛料をしっかり使った品が並んでいた。次に来たらそちらを試す。
おまけのスープと炒め物が、おまけの量ではない
北京ダックに付いてくるスープと炒め物は「おまけ」と侮れない量が出てくる。


スープは鴨の骨を使ったもので、青菜が浮いている。炒め物はもやしが主体。この日はかなり辛かったが、辛さの加減は時期によって変わるらしい。同じ品を頼んでも辛かったり辛くなかったりする、というのがこの店の常である。作り手が変われば味も変わるということだろう。
北京ダック一羽に、スープと炒め物と皮10枚。これで4,980円というのは、内容に対して出す額として納得できる。安いから良い、という話ではない。同じ額をホテルの中華に置いたときに得られるものと引き比べて、こちらのほうが腹も満足も大きいというだけの話だ。
気になったところも一応
水餃子の皮は厚い。もちもちと言えば聞こえはいいが、8個を三人で分けてもそれなりに腹が埋まる。点心を何種類か試したい晩には、この厚みが計算を狂わせる。
北京ダックの流儀については前述の通り。「あの北京ダック」を期待して来ると、確実に肩透かしを食らう。事前に知って行けば済む話ではあるが、看板に「名物」と書いてある以上、それが何の名物なのかは知っておいたほうがいい。
席の狭さと騒がしさも、好みが分かれるところだろう。
会計と、誰と行く店か
合計で12,348円。三人なので、酒を入れてひとり4,000円と少しの勘定になった。
中華で手軽に宴会をやりたいときの店である。あるいは、北京ダックというものを比較的リーズナブルに一度食べておきたいとき。どちらの目的でも外さない。逆に、静かに料理と向き合いたい晩や、二人でゆっくり話したい晩には別を当たったほうがいい。
店舗基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 中国茶房8 新宿店 |
| 住所 | 東京都新宿区新宿3-5-3 高山ランド会館 6F |
| アクセス | 東京メトロ「新宿三丁目」駅 徒歩1分/JR「新宿」駅 東口 徒歩5分 |
| 電話 | 03-5315-0116 |
| 営業時間 | 11:00〜翌5:00 |
| 定休日 | 年中無休 |
| 席数 | 105席/個室なし・全席禁煙 |
| 支払い方法 | クレジットカード可(VISA・Master・JCB・AMEX・Diners・UnionPay・Discover)/電子マネー可(交通系・iD・QUICPay)/QRコード決済は不可 |
| 駐車場 | なし |
| 予算 | 昼 〜999円/夜 2,000〜2,999円(※北京ダックを頼むと一人4,000円前後) |
| 名物 | 窯焼き北京ダック 一羽 4,980円(ねぎセット・ヤービン10枚・スープ・炒め物付き) |
| 公式 | https://cceight.com/ |
※価格・営業時間は変動する場合がある。訪問前に要確認。
総合評価
★★★★★★★☆☆☆(7/10)
メニューの厚みと、北京ダック一羽4,980円という設計。この二つで十分に元は取れている。三点を引いたのは、水餃子の皮の厚さ、看板料理が一般的な北京ダックとは別物であること、そして席の詰まり具合と喧騒だ。いずれも「知って行けば問題にならない」類の欠点ではあるが、知らずに行けば確実に引っかかる。
三人以上そろったら、また来る。